折形デザイン研究所

Origata Design Institute

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レポート 国際交流基金 エチオピア ワークショップ報告

5月10日金曜日pm1:30
エチオピアの首都アディスアベバの空港についたのは、途中ドバイ空港でのトランジットを含めると成田から20時間かかったことになる。日本との時差は6時間。
空港はガラスとステンレスのモダンな建築であるが、人影もまばらで照明も暗く、全体的に埃っぽく閑散としている。入国審査も簡単に済み、米ドルをエチオピア通貨のブルに換金。1ブルは約5円。空港ロビーを出る。気温は25度程。日本を出発した日と変わらないので体感的にはアフリカ大陸にいるという実感があまり湧かない。しかし、日本大使館の西本ひかりさんが満面の笑みで出迎えてくれた途端、20時間の見知らぬ土地への長旅の緊張が一気に緩んだ。
さっそく、大使館のバンでホテルへ向かう。空港からホテルまで約15分ほど。街全体が工事中で道路もいたるところが陥没し、信号もほとんど無い道を日本の中古車が排煙と土埃をあげながら走っている。 道端のテントの日陰には、山積みになったスイカや色とりどりの見慣れぬ果物が並んでいる。店先で買い物をする女性達は彫りが深く姿勢も良く美しい。一方で足を負傷した物乞いの男達の多いことにも気がつく。革命時や国境紛争で負傷した人々が多いということを西本さんから聞く。
pm2:00 Jupiter hotelにチェックイン。pm6:00にホテルロビーで西本さんと待ち合わせを約束して、我々は荷をほどいて、街中の喧騒と車のクラクションを聞きながらうとうととする。
夜、西本さんと車で近くのイタリアン・レストランAnticaで石焼きピザを食べながら打ち合わせを兼ねた夕食。赴任して三年の西本さんから日本とエチオピアとの関係やアフリカ大陸におけるエチオピアの置かれている政治的立場や宗教についての情報収集。国連やアフリカ連合など重要な機関がこのアディスアベバにある理由を知る。

5月11日土曜日am9:00
西本さんにホテルに来て頂き、講演内容の再確認とワークショップの「二枚重ねの紙幣包み」を体験してもらう。その後、会場であるアリアンス仏文化センターへ移動。2004年に日本を出発して、今回エチオピアへ巡回している「日本のデザイン100選」の展示会場を見学。今回のエチオピア訪問は、この展示に合わせての日本文化についての講演とワークショップが目的である。
「折形」の紙を折ることと日本のコンパクトカルチャーとの繋がりについて話をしようと思っているので、展示品をもう一度、見直してみる。   
四季の変化に応じて、しつらえを変える必要と、住まいの狭さから生活の道具を折り畳む文化が生まれたことや「始末」という行動美学について話をするつもりである。道具は使っていない時間の方が長い。その使っていない状態に美しさを求める美学が「始末」ということだろう。
会場の「日本のデザイン100選」を見学していた現地エチオピア人の若い建築家に聞くと、日本のデザインはテクノロジーの裏付けがあってのデザインなのでエチオピアの現状とはギャップを感じると言う。展示品の中の剣持勇やイサム・ノグチの作品を示して、日本の伝統に根ざしたデザインであることや、ソニー製品はコンパクトカルチャーから生まれていると説明したが、伝わったかどうかは疑問。
アリアンス・プチ・フランスで昼食の後、アリアンス仏文化センターの館長オリビエ氏と合流。オリビエ氏はアイスランドの後、インドネシアを経てここエチオピアに赴任したとのこと。
山海塾などの舞踏にも詳しく、また、ビヨークや彼女の夫で現代美術家であるマシュー・バーニーについても精通し、そのマシュー・バーニーの実験映画「拘束のドローイング」の冒頭が折形を折る所作が続く映像だという話や海の中の瞑想的な空間についての話まで及ぶ。
いつもは映画上映で使用しているホールに移動。次々と現地エチオピア人ばかりではなく各国の方々が入場する。いよいよ講演の時間だ。持参したパワーポイントの画像を使っての講演。まずは自己紹介を兼ねてグラフィックデザイナーとしての本の仕事を見てもらう。中でもあり合わせの紙で作られた「おじいちゃんの封筒」と使い古した石鹸を撮影した韓国の写真家クー・ボンチャン氏の「くらしの宝石」の本に強く反応していることが壇上からも伺えた。
続いて、折形と折る日本文化について、歴史の風土的な特徴との関わりについて話をし、あらためて「日本のデザイン100選」をそのような眼で見て頂きたいと伝えた。 また、折形は贈りものの包みと結びの礼法であり、儀礼性を持っているこや、包みと結びの造形には「陰陽思想」がうかがえる事などを述べる。一時間半に及ぶ講演後、地元メディアからインビューを受けた。そこでは折形が人類普遍の「贈与」という問題と繋がり、贈り物を折り包み結び奥に隠すという事は、日本の文化的特徴だろうという説明をする。
休憩を挟んで、折形のワークショップの部屋に移動する。当初は20名の受講の予定が一挙に60名を越えている。先程の講演を理解してもらった嬉しさと、遥かエチオピアに来たのだから、この際、持ってきた材料のすべてを駆使し、希望者全員に参加してもらうことにした。
今回のワークショップは美濃和紙を2枚使用して折る、折形デザイン研究所オリジナルの「紙幣包み」と婚礼の祝いに結ぶ「鮑結び」。日本人にとっても水引の結びは難しい。しかも、西本さんが通訳をしながらの説明と人数の多さにもかかわらず、参加者の集中力には驚く。終了時間はかなりオーバーしたが、ほとんどの方々が最後まで折り上げ、結びまで完成させた。
当初は少人数で丁寧にご指導しようと人数を絞ったが、こうして参加者の満足そうな様子を見ているとカルキュラムの内容も人数に応じて融通無礙に対応する柔軟性を持つべきだったと反省。次のチャンスにはそのように対応しようと思う。それでも、この修羅場を乗り越えられたのは、西本さんの八面六臂の活躍とオリビエさんのご協力の賜物だ。

5月12日日曜日
西本さんと近くのカフェlime treeで昼食。地元のアーティスト達が活動の場としているアートビレッジNetsa Art Villageに行く。ゲーテ財団の支援で作ったフラードームには数人のアーティスト達の作品が並ぶが、ドームの状態はかなり悪い、こうしたアート活動に対してのエチオピア政府からの支援はなく、日本人アーティストとのコミュニケーションと支援を望んでいるようである。 
ビレッジで昨日のワークショップに参加してくれたアーティストから彼の手元にあった紙とチオピア国旗の三色の毛糸で結ばれた包みを渡された。さっそく折形をアレンジしてワークショップの時の私達の写真をプレゼントしてくれたのだ。
このようにすぐに咀嚼をして具体的な返礼として、折形で包んだ贈り物をいただくのは嬉しいことだ。文化には質の違いはあるかもしれないが差はない。物を贈り合うというコミニュケーションは原始的だからこそ魂にいちばん近いところから生まれた方法なのかもしれない。折形はそういう普遍的性と深くつながっているのだろう。
雨の中、アディスアベバの全景が見渡せるエットット山ヘ車で移動。メネリク二世が植林したユウカリの森を抜け、山頂に到着する頃には雨が止み、大きな虹がかかる。祝福されているような気持ちになる。
山頂にはエチオピア正教の教会が立ち、巡礼者が多い教会の裏手にはメネリク二世の質素な離宮があった。土壁には牛の骨のフックがコート掛けして取り付けられ、それがリズミカルで美しい。日本の民家に通じるものがあった。
駐車場に戻ると教会の関係者が紐の束を捨てている。それは神へ捧げる供物のようなものかと、尋ねるとあり合わせの布を結んで繋いだ紐だと言う。日本の東北地方の神社に奉納されているおしら様に似ているような気がして、供物ではないかと錯覚したのである。
僧のズタ袋やボロ雑巾などになぜか聖性や霊性が宿る気がしてならない。ゴミとして処分すると聞き、頂くことにした。こんなゴミををどうするのだ、と怪訝な様子。その紐には「無作為な美」が宿り、大きな贈り物をもらったような気持ちである。
夜は西本さんのご案内によるエチオピアレストランで料理と歌とダンスを堪能する。

5月13日月曜日
午前中、Selam's Designという工房に立ち寄る。リズミカルな機織りの音がする。見れば男達が機織りをしている。ここエチオピアでは布を織ることは男達の仕事だそうだ。エチオピアの伝統的な技術を生かしながら現代的にデザインをしているとエレガントな女性のオーナーが話をしてくれた。私達の和紙や折形への取り組みと同じだ。16:10アディスアベバ離陸

5月14日火曜日
17:25 成田に到着。
事務所に戻ってさっそく、土産のエリオピアコーヒーを飲む。教会でもらった紐を取り出し、からみあった紐を解いていくと、色とりどりの端布を結んで繋いだ大きな輪となっていた。改めて、人の繋がりや絆という今回の旅行を象徴するギフトを受け取ったような気持ちがしてきた。

国際交流基金 エチオピア ワークショップ報告

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