折形デザイン研究所

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レポート 国際交流基金ラトビア ワークショップ報告

ラトビアレポート

7月11日木曜日
梅雨明け宣言が出た猛暑の成田を定刻より10分早く8時25分離陸。オランダ・スキポール空港へ11時間半の旅だ。KLMの機内のプラスチックのカップが伊万里のそばちょこを思わせるデザインである。オランダと日本の交易の歴史が、このような現代のデザインにもつながっているのだろうと思う。スキポール空港で約4時間のトランジット。空港のサイン計画やストリートファニチャーも含め、さすがデザイン先進国である。ショップにはドゥルーグのデザインしたものが並び、パッケージまでも含めてお土産に特化したものになっている。10年ほど前にパリから陸路でアムステルダムを尋ねているが、改めてダッチデザインを目の当たりにした気持ちである。デザインショップのディスプレイに使われていた、オランダの女流写真家のサラ・エンジェルハードの雪や氷上の動物の死体の写真集「STILL WILD」が印象的である。
スキポール空港で、エアーバルティックに乗り換え、約2時間でラトビアの首都キガへ。アムステルダムから北へ戻る形になる。空から見るラトビアは森と湖の国である。その白夜のリガの街へ飛行機は降りていく。空港には、大使館の上薗さんが迎えに来てくれている。どうも乗客の中で日本人は我々2人だけだったようである。車で20分ほどで、世界遺産となっている旧市街地の中のホテルへ。突然、中世の世界へ紛れ込んだような気持ちだ。ホテルも素敵である。チェックインを済ましたのが、現地時間で22時半。日本時間で朝の5時半。東京を出発して24時間が過ぎたということになる。


7月12日金曜日
ゆっくりとホテルで朝食。帰国すると句会があるので句作り。兼題は、夏館である。

銀食器取り落としたる夏館
夏館挨拶返す鸚鵡をり
ナフキンの折り目正しき夏館


朝食の後、リガの街を散策。街路の石畳の石の角がとれて丸みを帯び、足底からも長い歴史を感じる。昼食は、大使館の石井さんと上薗さんとリバーサイドのKOYAというレストランへ。肉料理も魚料理もおいしく、盛りつけも花が添えられ、美しい。川には北欧からの豪華客船が停泊し、街は夏休み気分である。
食事の後、大使館に場所を移して、明日の講演とワークショップの打ち合わせ。通訳はウギスさん。日本語は独学だというが、驚くほど流暢な日本語であるとともに、日本文化についても造詣が深い。高校生のときに日本語弁論大会で優勝したという。そのご褒美で日本に1ヶ月ほど滞在したらしい。
急遽、大使館の方々に向けて折形のワークショップを行うこととなる。皆さん、丁寧で熱心でもあり明日のワークショップもうまくいきそうである。
夜、夫婦でリガの街へ出て食事をする。夜23時くらいにならないと陽が落ちないことと、金曜日が相まって街に人があふれている。短い夏を人々が満喫していることがよく分かる。

7月13日土曜日
「現代日本のデザイン100選」はラトビア・アート・アカデミーの古いギャラリーでの展示である。5月にエチオピアで見たときとは、会場が違うので、展示品から少し異なった印象を受ける。講演とワークショップは、その建物に隣接するコンクリートの打ち放しのモダンな建物である。準備はすでに整っている。 ラトビアの人は時間に正確で我慢強く、大使館の方の弁によれば「上質な人々だ」と聞いていたが、13時からの講演時間には全員着席していたのには驚いた。講演も静かに、そして熱心に聞いてくれる。
続いてのワークショップも事前予約していた人たちが定刻には全員集まってくれていた。折紙が普及しているので紙を折ることには慣れているらしく、作業が丁寧である。日本から、何種類かの和紙を準備していったが、2枚の和紙を重ねる折形なので、1枚は自由に選んでもらうことにする。その紙の質の違いについての説明には多くの質問が出たほどである。 結びは、あわび結びという難しい手順の五本取りの結びだが、それらもほとんどの人が美しく結び上げていた。教えた我々の方が感動するほどだった。 会場にはウギスさんのお母さんがいらしていて、その後、新市街を案内していただく。ウギスさんには明日一日ラトビア民族野外博物館を案内してもらうことになった。

7月14日日曜日
朝、ホテルにウギスさんに迎えにきてもらい、旧市街を案内してもらった後、バスで30分ほどのユグラ湖畔の松林の中にあるラトビア民族野外博物館へ向かう。その間、ドイツに占領されていた時代やロシアの支配下の時代のラトビアの歴史について聞く。ユーゲントスティル様式のこと、映画監督のエーゼンシュタインのこと、リガ生まれの画家、マーク・ロスコのことなど共通する話題で話しはつきない。
野外博物館では、日本の神社の千木や鰹木との共通性や、ラトビア神道と日本の神道とが樹木信仰という点で共通することなど、ウギスさんの口から次々と出てきてびっくりする。案内に飾られた柏の葉のリースは、神の依代であることや家を建てる時には、ダウリングによって場所を決め、まず柱を立てることから始めるなど、興味深い話である。気がついたら5時間以上も建物探訪をしていた。慌てて市街地に戻り、人間国宝の人々が作った工芸品の展覧会を見に行く。
レース、木工品、ガラス工芸、布、テキスタイル、バスケタリーなど、びっくりするほど質の高い品々に驚くばかりである。折形の結びが上手であることに合点がいく。また、ウギスさんの言うラトビアの人々は森と一緒に暮らしてきた民であるということが、うなずけることだった。森からもたらされた恵を本当に大切に扱っていることがひとつひとつの工芸品から見てとれるのである。自然からのギフトに対する返礼なのだろう。
ラトビアも北欧に入るのだろうが、デザインという概念が入る前の質の高い伝統的な工芸が生きている国であると改めて思う。スカンジナビア・デザインはこの豊かな手工芸の伝統の上に成り立っているのだろう。
風土から生まれた信仰やそれと切り離されていない手工芸。本当にいい経験をすることが出来たと思う。ウギスさんとは、夜も更けるまでレストランで語り合うことができた。再会を約束して別れる。


7月15日月曜日
朝、ホテルに上薗さんに迎えに来ていただき、9時10分、リガの地を離れ帰国の途についた。充実した旅行だったと思う。旅は人との出会いが大切だと改めて思う。

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